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スポーツ整形外科グループ

スポーツ整形外科グループ

膝前十字靭帯損傷・再損傷予防を目指したスポーツ動作の生体力学的研究

【研究の背景と目的】

2次元、3次元動作解析の手法を用いた膝関節の生体力学的研究を行っています。ジャンプ着地動作の縦断調査やスポーツ特異的動作の解析を行うことで、膝前十字靱帯損傷の危険となる動作の解明や、トレーニングによる膝前十字靭帯損傷・再損傷予防効果の検証を行っています。

【これまでの研究成果】

これまでの研究では、膝前十字靭帯損傷受傷時に多いジャンプ動作やカッティング動作、スポーツ特異的動作の3次元動作解析を行い、膝前十字靭帯損傷リスクとの関連について報告しています。また、膝前十字靭帯再建術後のスポーツ選手の動作解析を行い、術後に特徴的な動作を調べ、再損傷の関連についても調査しています。
これまで、弘前市内の高校生バスケットボール選手を対象にメディカルチェックを行い、膝前十字靭帯損傷発生リスクとの関連を調査しました。また、岩木地区の小中学生を対象にジャンプ着地動作の縦断調査を行い、成長期のジャンプ着地動作と膝前十字靭帯損傷リスクの検討も行いました。現在は、市内の少年サッカーチームを対象に動作解析を含めたメディカルチェックを行い、膝前十字靭帯損傷予防プログラム介入前後の効果も検証しております。
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関節組織損傷・再建術・修復術に関するバイオメカクス研究

【研究の背景と目的】

バイオメカニクスとは生物学的構造(ヒト・動物・骨・靭帯・筋肉など)を対象とした力学的研究を意味します。当講座では、主に膝前十字靭帯(ACL)の損傷機序やその治療法であるACL再建術に関する研究をバイオメカニクスの観点から行っています。その他に膝蓋骨不安定症に関する研究では、内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)再建術で用いる人工靭帯の固定強度の検討や、MPFL再建術における膝蓋大腿関節の接触圧の変化の解明を行っています。

【これまでの研究成果】

解剖学的二重束ACL再建術において脛骨骨孔位置は、膝関節安定性や術後の半月板損傷に関連していることを明らかにしてきました。脛骨骨孔を解剖学的な設置位置よりも後方に設置した場合、脛骨前方移動量は正常膝と比較して有意に増大することわかりました。さらに脛骨骨孔を後方に設置した場合、正常膝と比較して有意に内側半月板と大腿骨の接触面積が小さくなること、また接触圧が増大することもわかり、ACL再建術における脛骨骨孔設置位置の重要性が示唆されました。
MPFL再建術においては、ノットレスアンカーと人工靱帯を用いたMPFL再建術の最大破断強度は、正常膝と比較して有意に大きく、またその剛性も正常膝と差を認めないことがわかりました。また人工靱帯を用いたMPFL再建術における膝蓋大腿(PF)関節の接触圧に関しては、人工靱帯を0°、30°で固定した場合、内側PF関節の接触圧が60°、90°で固定した場合と比較して有意に増大することがわかりました。さらに人工靱帯を60°、90°で固定した場合の内側PF関節接触圧は、正常膝と同等であることがわかりました。以上の結果から人工靱帯を用いたMPFL再建の際には、過度のPF関節圧を避けるために、膝関節60°から90°屈曲位で人工靱帯を固定するようにしています。
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早期変形性膝関節症の縦断的疫学研究

【研究の背景と目的】

本邦における変形性膝関節症(膝OA)の有病者は約900万人に及び、慢性疼痛やADL低下のため介護保険利用の大きな原因となっています。進行期膝OAでは人工関節置換術以外の効果的な治療選択がありませんが、一方で早期介入を行うことでその進行を抑制できる可能性も指摘されています。近年、早期膝OAの概念が提唱され、診断方法の確立に向けた研究が開始されています。本学では青森県民が「短命」であることの要因分析と平均寿命の向上を目的に、15年以上の長期にわたり地域住民健康プロジェクトを行ってきました。我々は、膝OAの自然史を詳細かつ多面的に観察し、様々な危険因子解析を中心に早期OAに関する疫学研究を行ってきました。MRI検査の導入やmetabolome解析など新たなアプローチも取り入れながら、早期膝OAをより深く、詳細に長期的に観察していく行うことを目的に疫学研究を継続しています。

【これまでの研究成果】

本地区における膝OAの有病率は男性15.1%、女性32.5%であり、全国調査と同様に加齢とともに増加します。特に早期膝OAに注目しますと50歳代の女性での有病率が最も高いことがわかりました(図1)。5年間縦断的観察からはOA発生率は70歳代男性で67%、60歳代女性で60%と高値を示していました。さらに早期膝OAには加齢、女性、肥満、膝外傷の既往が危険因子となっておりますが、好発年齢女性を対象に早期OAのMRI所見の特徴を観察しますと、骨髄病変や半月病変、滑膜炎の有病率が高くなっておりました。さらに早期膝OAには骨脆弱性や脛骨骨形態が関与していることがわかってきており、早期OAの病態や自然史が徐々に明らかになってきているところです。
スポーツ整形外科
早期膝OA、進行期膝OAの性年代別有病率


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超音波装置を用いた半月板評価、滑膜炎評価


生体内再生誘導メカニズムを応用した関節内組織修復法の開発に関する基礎研究

【研究の背景と目的】

関節内組織損傷の中には手術治療により修復可能なものもありますが、手術を行ったとしても治癒に難渋するものや治療法が確立していない分野もあります。大阪大学再生誘導医学寄付講座との共同研究から最新の基礎研究技術を用いて生体内組織修復メカニズムの解明に向けて日々取り組んでいます。

【これまでの研究成果】

大阪大学再生誘導医学寄付講座玉井教授との共同研究を通して、生体内再生誘導医薬であるHigh mobility group box 1 (HMGB1)ペプチドを用いた関節内組織修復に向けた基礎実験を行っています。骨軟骨欠損モデルマウスを用いた実験からHMGB1ペプチドによる良好な関節軟骨再生を確認することができました。現在は基礎から臨床へと研究を進め、軟骨再生に関する医師主導治験を行っています。

関節リウマチおよび変形性関節症における軟骨損傷に対する自然免疫反応の病態解明

【研究の背景と目的】

関節リウマチや変形性関節症は不可逆的な関節の変性を引き起こし、ADLに大きな支障をきたします。高度な関節変形には人工関節置換術などの外科的手技が余儀なくされている現状です。関節リウマチに対しては生物学的製剤の台頭により薬物治療が格段に進歩しました。しかし、関節炎における滑膜炎や軟骨損傷の病態は未だ十分に解明されていません。当講座では、滑膜炎や軟骨損傷を自然免疫という観点から検討し、関節変性の病態解明についての基礎的な研究を行っています。

【これまでの研究成果】

本学の脳血管病態学講座の今泉忠淳教授との共同研究を通じて、関節リウマチの自然免疫機構における新規炎症経路の探索をしています。RAの滑膜炎では自然免疫応答が重要とされており、mRNAをリガンドとする自然免疫受容体であるTLR3はリウマチ滑膜細胞での発現量が高いとされる一方、本受容体を介した炎症経路はいまだ不明な点が多い現状でした。 リウマチ滑膜細胞にmRNAを添加し、TLR3を介した新規炎症経路を探索すると、炎症や骨破壊に関与するCXCL10の発現が誘導され、さらに本経路にIFN-βとMDA5という分子が本経路に関与することが示唆されました。このような新規炎症経路の探索は、関節リウマチにおける新たな治療戦略の構築に寄与する可能性があります。今後は変形性関節症に対しても本研究手法を応用し、新規病態経路の探索を進めていきたいと考えています。
スポーツ整形外科

有限要素解析法を用いた野球肘の病態に関する研究

【研究の背景と目的】

成長期の野球選手に多いスポーツ障害として野球肘が広く知られています。内側型野球肘(上腕骨内側上顆障害)と、外側型野球肘(離断性骨軟骨炎)、後方型野球肘(肘頭疲労骨折)に分類され、それらを受傷した選手は長期間のスポーツからの離脱を要します。当講座では、野球選手をスポーツ障害から守ることを目的として、3Dモデルを用いた有限要素解析によりそれらの病態を研究し、原因や増悪因子を検討しております。

【これまでの研究成果】

肘関節3Dモデルを作成し、投球動作を模した力学的負荷での検討を行っております。内側型野球肘と外側型野球肘との関連を検討するため、内側側副靭帯のゆるみを再現したモデルでの検討を行った結果、ゆるみが大きいほど投球動作時の肘関節にかかる負荷が大きいことが示されました。内側型野球肘は投球のオーバーユースによって引き起こされるため、オーバーユースが外側型野球肘の発生部への負担を大きくしていると考えられます。臨床研究の結果もあわせて、これらの関連が明らかになってきています。 スポーツ整形外科
スポーツ整形外科 Kamei K, et al. Ulnar collateral ligament dysfunction increases stress on the humeral capitellum: a finite element analysis. JSES Int. 2020より



業績:スポーツ整形外科グループ

  • Impact of Diabetes Mellitus on Cervical Spine Surgery for Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament.
  • Kimura A, Takeshita K, Yoshii T, Egawa S, Hirai T, Sakai K, Kusano K, Nakagawa Y, Wada K, Katsumi K, Fujii K, Furuya T, Nagoshi N, Kanchiku T, Nagamoto Y, Oshima Y, Nakashima H, Ando K, Takahata M, Mori K, Nakajima H, Murata K, Matsunaga S, Kaito T, Yamada K, Kobayashi S, Kato S, Ohba T, Inami S, Fujibayashi S, Katoh H, Kanno H, Watanabe K, Imagama S, Koda M, Kawaguchi Y, Nakamura M, Matsumoto M, Yamazaki M, Okawa A.
  • J Clin Med. 2021 Jul 29;10(15):3375. doi: 10.3390/jcm10153375. PMID: 34362158; PMCID: PMC8347558.
  • Treatment After Anterior Cruciate Ligament Injury: Panther Symposium ACL Treatment Consensus Group.
  • Diermeier T, Rothrauff BB, Engebretsen L, Lynch AD, Ayeni OR, Paterno MV, Xerogeanes JW, Fu FH, Karlsson J, Musahl V; Panther Symposium ACL Treatment Consensus Group, Brown CH Jr, Chmielewski TL, Clatworthy M, Villa SD, Ernlund L, Fink C, Getgood A, Hewett TE, Ishibashi Y, Johnson DL, Macalena JA, Marx RG, Menetrey J, Meredith SJ, Onishi K, Rauer T, Rothrauff BB, Schmitt LC, Seil R, Senorski EH, Siebold R, Snyder-Mackler L, Spalding T, Svantesson E, Wilk KE.
  • Orthop J Sports Med. 2020 Jun 24;8(6):2325967120931097. doi: 10.1177/2325967120931097. PMID: 32637434; PMCID: PMC7315684.
  • Treatment after ACL injury: Panther Symposium ACL Treatment Consensus Group.
  • Diermeier TA, Rothrauff BB, Engebretsen L, Lynch A, Svantesson E, Hamrin Senorski EA, Meredith SJ, Rauer T, Ayeni OR, Paterno M, Xerogeanes JW, Fu FH, Karlsson J, Musahl V; Panther Symposium ACL Treatment Consensus Group.
  • Br J Sports Med. 2021 Jan;55(1):14-22. doi: 10.1136/bjsports-2020-102200. Epub 2020 Jul 13. PMID: 32661128.

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