留学寄稿
留学寄稿 佐々木 英嗣
エモリー大学留学報告
2021年8月から2022年7月までの約1年間、アメリカのエモリー大学に留学させていただきました。まず初めにこのような貴重な機会をいただいた石橋教授はじめ、スポーツグループの先生方、同門会の先生方にお礼申し上げます。ありがとうございました。この場をお借りして私が経験してきたことを少しご紹介させていただきたいと思います。
エモリー大学はジョージア州アトランタ市にあります。アトランタはオリンピックが開催されたこともある大都市で、多くの観光客が訪れます。また名産の桃にあやかったピーチツリーロードレースは多くの人でにぎわいます。プロスポーツも盛んですが、中でもアトランタブレーブスが昨年ワールドシリーズを制覇し大変な盛り上がりでした。
自分がお世話になったのはOrthopedic Sports Medicineの統括者であるJohn Xerogeanes先生になります。Last nameはアメリカ人も読めないようで、Dr. Xと呼ぶようにと患者さんにも説明していました。日本の医療系ドラマ、Dr. Xの米倉涼子もお気に入りのようでよく話題になりました。2017年の木村由佳先生、2018年の佐々木静先生に続いてお世話になりましたが、もともとは石橋教授がピッツバーグ留学時代にフェローとして一緒の時期を過ごしたご友人であるという経緯を経て留学させていただいております。
Dr. Xの専門はスポーツ医学ですが、中でも自家大腿四頭筋腱 (QT) を用いた膝前十字靱帯 (ACL) 再建術で、近年米国内では非常に注目が集まっている分野で、初回ACL再建術の10%程度にQTが使用されるようになってきているようです。本邦ではほとんど行われていない術式になりますが、徐々に浸透していく可能性が高いと考えています。Single bundle再建になりますが、非常に太いgraftが安定して採取できるのが特徴になるため、ハムストリング腱が細く短い小児や思春期女子がよい適応と教えていただきました。9-10mm径に形成し、all inside法で最終固定を行います。小児では大腿骨側のみoutside inでの骨端線温存法で骨孔を作成しておりましたが、MRIを3D再構築して刺入点の確認をしていました。このようなQTを用いたACL再建術の中で、自分も臨床研究の一部を手伝わせていただきました。採取したばかりのQTには脂肪や筋成分が付着し、腱の質も症例によって個体差がありました。一方で30歳以降で活動性が少しでも低下している人ではTA allograftでの再建が選択されていました。この辺の選択は日本では考えられない発想(おそらくallograftを希望する日本人はいない)で、非常に面白いと感じました。膝蓋骨脱臼に関しては脛骨粗面骨切り術が第一選択でしたが、症例によっては内側膝蓋大腿靱帯 (MPFL) 再建術を選択し、なるべく膝蓋骨に侵襲を加えない方法を模索しながら新たな術式開発に向けて取り組んでいました。
自分が在籍した同時期に2人のフェローと1年間一緒に過ごし、2か月ごとローテートしてくる2人のレジデントとも交流することができました。フェローは元サッカーのナショナルチームで活躍したことのある女医さんとスペイン語堪能で弁護士資格もあるオーランド出身の男性でどちらとてもよくしてくれました。一緒に症例や手術方法のディスカッションをしたり、様々な文化を教えてもらえました。2人ともかけがえのない友人です。彼らは給料が低くてと言っておりましたが、自分に力をつけるために本当に努力しておりました。ACL再建を例にとると、レジデントが診断的関節鏡と郭清を行い、フェローがgraftを採取。Dr. Xがgraftの準備をしている間にレジデントがドナーサイトの処置をして、骨孔作成のドリリングなども行います。閉創はレジデント任せです。このように若い先生が手術においても多くの部分を担っており、手術を覚えようとする強い姿勢、積極性がとても印象的でした。
またスポーツの現場も多く見せていただきました。Dr. Xがサポートしているジョージア工科大学のアメフト部、バスケットボール部の試合や練習に参加する機会もいただきました。特にアメフトはこれまで見たことがない競技でしたが、戦略、迫力ともにとても楽しめましたし、さらに学生の大会なのにこれほどまで大規模で観客が多く熱狂している様子をみて、国民がスポーツにかける思いを感じることができました。クリニックでもそうですが、年齢によらずスポーツを愛する国民性だからこそスポーツ医学の分野が発展しているのだなと感銘を受けました。自分もミッドタウンの道場に毎週通い柔道普及に努めて参りました。
スポーツ以外にも食文化や人と人との関係、物や時間に対する価値観、家族とのあり方と数えきれないほどの文化の違いを肌で感じることができました。もちろん言語は少ししか上達しませんでしたが、それ以上に得るものの多い時間を過ごすことができました。妻も子供たちもそれぞれが友人を作り、素晴らしい経験をさせていただきました。自分もこれまでとは考えられないほど子供と話をし、一緒に遊び、いろんな場所を見せてあげることができました。騒音問題でご近所トラブルとなり、途中引っ越ししました。最後のロードトリップの最中に車が寿命を迎え走らなくなりました。体重も15kg増えました。毎週深夜か早朝の日本とのweb meetingがありました。帰国時の飛行機がモンスーンの影響で遅れて予定していた国際線に乗れませんでした。虫も蚊も強力でした。それでも素晴らしい日々でした。このような機会をいただいた石橋教授、Dr. Xには本当に感謝しかございません。ありがとうございました。また長期間不在をいただきましたスポーツGの先生方に深謝申し上げます。苦労することも多くございましたが、若い先生にもぜひお勧めしたいと思います。日々の臨床とは全く異なった刺激ですが、とても勉強になると思います。自分も今回学ばせていただいたことを今後の人生、臨床に生かしていけるよう精進していきたいと思います。
研究・実績
- 研究内容
- →脊椎・脊髄外科グループ
- →スポーツ整形外科グループ
- →関節グループ
- →手外科・外傷再建グループ
- →骨・軟部腫瘍グループ
- →業績集
- →書籍集
- →受賞・表彰
- →留学寄稿